【第4分科会 個人発表2】

司会:伊田久美子

 

フェミニズム文学批評の変遷:時代と共に変化する読みの視点

真野孝子

 

 世界的なパンデミック下で人々の生き方や考え方に大きな変化が現れてきている。フェミニズム文学批評も例外ではない。エッセンシャル・ワーカーのケアの重要性が再認識され、フェミニズム文学批評の言説にもケアの視点が出てきた。例えば、ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』のラムジー夫人は「家庭の天使」を体現している人物であるが、以前は女性の自我の確立の視点から否定的に捉えられていた。しかし、ケアの視点から肯定的に読み解かれる批評が現れた。作品を具体的に読みながら変化する視点を明らかにしていくと、フェミニズム文学批評の変遷が浮き彫りになるのではないか。

 

 


中国における同性愛主体の浮上の歴史:1910年代以降の大衆メディアを中心に

于寧

 

 本報告は中国における同性愛主体の浮上の歴史を考証する。蔡明発(Chua Beng Huat)と岩渕功一が提唱した「アジア間相互参照(inter-Asian referencing)」の比較図式を援用し、日本における大正時代以降の雑誌や新聞の投稿での男性同性愛者の登場に関する前川直哉らの研究を参照枠に、中国で「同性愛」概念が導入された1910年代以降の大衆メディアにおける同性愛主体の出現、いわゆる「近代的なアイデンティティ」の出現のプロセスに迫り、同性間の親密な関係に対する認識の変遷を明らかにする。

 

 


ネパール・旧王都パタンの女性自助組織のネットワークによるコミュニティの災害レジリエンス向上に関する一考察

竹内愛

 

 ネパールのパタンでは、1990年代以後次々と設立されている女性自助組織が地域ニーズに合わせた活動を行って地域に貢献している。2015年地震発生後、女性自助組織は観光を目指した復興を計画し、リーダーシップを発揮した。新型コロナパンデミック後は、住民にマスク配布、フードバンク立ち上げ、SNSを使った情報共有など、住民の生活を安定させるために努力している。女性自助組織の長期の活動経験が、災害レジリエンス向上にも役立っている。

 

 


米国の産児調節をめぐる規制法と医師例外規定をめぐる論争について

横山美和

 

 米国の産児調節運動は、マーガレット・サンガーらが日本から輸入した避妊具の没収にかかわる裁判判決により1936年に大きな転機を迎えたとされる。産児調節運動家らは、各々の立場で避妊具や避妊情報の郵送や取引を禁じる法改正を目指していたが、サンガーは医師のみ例外的にそれらを許可すべきという方針であった。裁判資料から、米国の産児調節運動で「医師限定派」の優勢が形作られていった様子を明らかにする。